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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和41年(少)1360号 決定 1966年12月05日

少年 I・K(昭二三・一二・二一生)

主文

少年を福岡保護観察所の保護観察に付する。

理由

一  非行事実

少年I・Kは小使銭に窮し、Aと共謀の上、タクシー運転手を襲つて金員を強取することを企て、昭和四一年四月○日午後九時五五分頃、北九州市小倉区○○町○丁目交叉点において、通りかかつた個人タクシー運転手○根○彦の運転するタクシーをよびとめ、右車の後部座席に乗車し、同人に対し「△△町の○電社宅まで」と運行を命じ、同人をして右車を走行させ、同日午後一〇時五分頃、小倉区△△町所在○電社宅の路上に至るや、同人に停車を命じ、Aは同所において、突如、背後から左手に登山ナイフを握り○根の左胸を突き、更に右腕を同人の首に巻きつけて締め、右手に石様のものを握り、同人の頭部を殴り、少年I・Kはその間、エチールエーテル液をガーゼに浸して、○根の鼻にかがせる等の暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、同人所有の現金六、三〇〇円を強奪するとともに、前記同市同区○○町交叉点より同市同区△△町○電社宅までのタクシー代金二二〇円を踏倒し、もつて該料金相当の財産上不法の利益を得たものであるが、その際前記暴行によつて同人に加療約一週間を要する左胸部右手切創並に頭部挫創の各傷害を負わせたものである。

二  法令の適用

上記強盗致傷の所為は刑法第二四〇条前段に、共謀の点は同法第六〇条に各該当する。

三  保護処分に付する理由

本件非行の態様は粗暴、残酷、成人もおよばぬ手口であり、少年はAから計画をうちあけられ、加担しているものであつて、罪体は極めて重大であるが、本件非行の前後の状況、少年とAとの性格、環境、非行歴等を詳細に検討すると、主役はAであり、少年はAにあやつられ、命ぜられるままに行動しているものであり、あくまで従的な立場にあるものと認められ、少年が使用したエーテル液の準備、その使用方法もすべてAが用意し、計画したもので、Aは少年の後記のような幼稚さ、虚栄心を利用したものと考えられる。

少年の両親は手広く商売をやつており、家庭的には特に問題となる葛藤は見受けられないが、これまでの両親の養育態度は適切でなく、商売に追われて子供に対する指導が充分に行われておらず、暖い家庭的雰囲気に欠けている点が見受けられ、その結果、少年は年齢に比して精神発達が未成熟、自己中心的で虚栄心が強く小児的性格傾向を示し、知的な面や意思面で欲求衝動を昇華し、変容することができず、将来の見とおしを欠き、即行的行動をとりやすくなつている。

しかし少年は初犯であり、前記の各事情に加えて、平素、家庭や職場では従順でやさしい面もあり、仕事も普通につとめており、特に本件を機に大いに自覚し、更生を誓つており、両親も本件によつて従来の放任的態度を一変し、保護に異常な熱意を示すようになつているので当裁判所は少年に対して試験観察の決定をなしたところ、その経過は良好であつた。

即ち、右決定後、少年鑑別所から帰宅してからは、少年は父母によく親和し、その指導監督によくしたがい、家業に真面目に従事し、よく耐えており、向上心もうかがえ、不良交遊、夜遊び等の問題行動もないことから精神的にも相当安定してきたことがうかがえる。

しかし、少年の本件非行の重大性と前記の性格の特質からいまだ将来の保護態勢に若干の不安が残るので、今後は専門家による指導を通じて良好な社会適応性を維持していく必要があると認められるので、少年を福岡保護観察所の保護観察に付することとし、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 大川勇)

参考一 少年調査票<省略>

参考二 調査意見書(観察報告)<省略>

参考三 鑑別結果通知書<省略>

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